個人が物を作って売ってお金を稼ぐということ

昨年の9月くらいから、個人として電子基板を作成し、それを売ってお金を稼いでいます。

スイッチサイエンスさんにて委託販売:
センサレスブラシレスモーター実験基板
気圧温湿度複合9軸センサ基板

基板の設計や製造までは、Google等で検索すれば方法はいくらでも見つかる世の中なので
ずいぶんと個人が物を売るという参入障壁が低くなりました。

特に初期不良や設計内容に不安が多い電子基板や機械関係の商売は
ヤフオクやメルカリなどの個人対個人の半ば宝探しのような売買関係から
ある程度信頼をおける企業を挟んだ委託・請負販売にシフトしてきていると思います。



私も昨年の3月頃より、「暇なのでモノを作って売ろう」と漠然とモノづくりを始めました。

電子基板の設計手法や製造方法についてインターネット上のドキュメントを読み漁り
KiCADで回路を起こして、PCBCARTに初めて製造を依頼したのが6月のことです。

それから間もなくして、スイッチサイエンスさんに
センサレスブラシレスモーター実験基板」の委託のお願いを申し入れ、無事販売開始となりました。


はじめの頃、どんな問い合わせが来るのかとビクビクしていたのを覚えています。
「自分の専門外のことを聞かれたらどうしよう」とか
「自分より専門知識が上の人から間違いを指摘されて、基板を全回収になったらどうしよう」とか。

スイッチサイエンスさんの委託販売では、1月に一回売り上げの報告が上がるのみで
どれだけ売れているのかをリアルタイムで知る方法はありません。
六縁試策のCMSサイトに掲示板を設けていますが、そこへの書き込みも一切なく、

「本当にどれだけの人がこの基板を購入し、どのようなことに使っているのかわからない」
「問い合わせも無く、いつ何時不備の連絡が入るかもわからない」

このあたりは本当に怖かったです。

実際は、
「購入者はあまり作者に関心を示さず、よほどのことがない限り連絡をしない」
が正解でした。

例えば私も秋月電子で電子部品を購入して、使い方がわからないからといって秋月電子に問い合わせすることはありません。Googleで調べて自分で解決します。
解決できないなら予備を購入したりして、現象の再現性を確認します。
そこで再現できてようやく、「これは間違っていて、本当はこうやって動かす」
というのがわかります。しかしわかったからといって、それでもやはり販売元には連絡しません。


電子工作界隈は非常に内向きでクローズドな世界です。
(最近になってようやく門戸を開き始めましたが、それでもまだまだ内向きです)

なんかこう・・言い表すと、刺すか刺されるか。
知識量の露呈、それ即ち、死。 そんな世界です。
(個人の意見です)

だから、「興味のないものには一切手を出さないし反応も示さない」
「欲しいものだけ買う」「買ってもレビューなんかしない。フィードバックしない」が当たりまえ。
(これは悪いことではありません)

事実、「センサレスブラシレスモーター実験基板」は
用途の特殊性、値段の高さからあまり見向きされていません。
8月に製造した全数をスイッチサイエンスさんに預けていますが、正常に販売されて
ユーザーの手元に届いたのは、この1年で半分だけです。

問い合わせの数で言うなら、たったの3件です。1年でたったの3件。

逆に、「気圧温湿度複合9軸センサ基板」は
用途が多種多様であり、値段もまぁ・・・うーん・・・高いけど・・・。
それなりに売れています。最初に預けた全数が販売され、第二ロットも完売。
第三ロットを現在預けている状態です。

それでも、問い合わせの数は、たったの8件。1年でたったの8件。

販売個数は3桁を迎えようとしているにもかかわらず・・・です。


どうやら私は、個人製作の基板に対する熱い視線のようなものに過度に怯えていたようです。

私が製造しているものが大衆向けのアクセサリであれば話も違ったでしょうが、前述のとおり
非常にクローズドな世界ですのでそんな視線はありません。

だから個人でも安心してモノを作って出すことができます
「興味がないものには手を出さない」のだから、自分の作ったものに需要があるのかどうかを
正確に把握することができるでしょう。
一番性格が似ているものを挙げると、コミケと同人誌でしょうか?


しかし・・・個人でも安心してモノづくりで食べていける世界。
そのように考えることができません。
それができるのは現時点ではクラウドファンディング出来レースだけです。
(クラウドファンディング出来レース:現時点で出資を受けなくても余裕で製造販売が可能であるにもかかわらず、宣伝効果を狙ってクラウドファンディング企画として掲載して出資を仰ぐこと。)

なぜなら、個人で一度に製造できるモノの数には上限があり、
多く製造できたとしても個人相手の商売は数が捌けないからです。

気圧温湿度複合9軸センサ基板」で考えてみましょう。

現在「気圧温湿度複合9軸センサ基板」は1つ税込み6,750円で販売しています。
仮にこれが1か月で20個売れた場合、135,000円です。税抜きで125,000円。
この125,000円から、販売手数料が引かれて112,500円が私の手元に入ります。

この112,500円から「部品費用」、「製造・実装費用」、「輸送費用」を引くと・・・。
まぁだいたい33,000円くらいでしょうか?

ここから「企画・設計費用」や「保守・運用費用」を引くと・・・もう考えたくもありません。

月給33,000円。実働22日で日給換算約1,500円のお仕事。そんな世界です。
しかし、これでもまだうまくいった場合の計算です。
実際は1か月で20個売れるなんてのはあり得ません。

完全にセドリの世界と同じか、それよりも取り分は少ないです。


だからもし、「これからはモノづくりの時代や!個人でモノつくって儲けるんや!」って考えている人は大人しく法人化して、銀行等やVCから出資を受けましょう。
個人の枠でできることには限りがあり、うまくいったとしても、取り分が狂気めいているほど少ないということを認識しておきましょう。

私の中では、
「個人が
物を作って売ってお金を稼ぐということ」

夢物語と結論付けられました。

正直に言うと、「やりがい」や「達成感」や「喜び」もあまりありません
金銭面においてすべてが当初の計画通り、「だいたいこうなんだろうなぁ・・・」と考えていたとおりになったからです。

現世で生きていくにはお金が必要であり、昭和の精神論だけではものを食べていけません。
自分の能力を駆使してお金が稼げないのであれば、それはただの「趣味」です。
空き缶拾いにも劣るお金稼ぎです。

もしこのブログを何かの機会に発見して、この記事をご覧になられましたら
「無残な結果になることを承知で無謀なことをしてみたら、時間を大量に消費して
妥当な無残な結果だけか残った」という事実があるということを覚えておいてください。
あなたたちが私を同じ轍を踏まないように。

しかし、それでも私はまだまだこの事業を続ける予定です。
日本での人生というのは、人に迷惑をかけない限り、何をしても自由です。

もうしばらく、この泥沼で楽しく足掻いていこうと思います。


One comment to this article

  1. nobu_e758

    on 2020年10月31日 at 1:41 PM - 返信

    本記事,非常に楽しく読ませていただき,また勇気づけられました.

    ここ1年ほどで同じようなことをしましたが「問い合わせ」やその心配など
    全く同じ状況で,思わず笑ってしまいました.

    しかしおっしゃる通り,迷惑をかけているわけでもないので
    私自身もほそぼそとやっていくつもりです.

    草葉の陰から成功をお祈りしております.

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